佐野正幸さんの新著『近鉄消滅 新生パ・リーグ誕生』を手にとって

先日、『近鉄球団かく戦えり。』のエントリーで、『ダイナミックランドBLOG』のh_kazuさんからいただいたコメントにもあった“佐野正幸さんの新刊”『近鉄消滅 新生パ・リーグ誕生』が8月25日に出版された。思い出したのが発売前夜で、「ネットで買うより本屋へ行った方が早いだろう」とタカをくくったものの、そこいらの書店では入荷しておらず、やむなく泉北の紀伊国屋書店を尋ねるも売り切れ、「嗚呼、大阪って一体…」と嘆くハメになった。結局、Amazonで注文、昨日ようやく入手することができた。

さて、まずはじめに、一つだけどうしても触れないわけにはいけないことがあるので、記しておく。本書の版元「長崎出版」は、今年5月に「バファローズ・ブルーウェーブの球団存続を訴える会(現:プロ野球・チーム存続を訴える会)」をそそのかし、同会と共謀して記録本『合併反対 - 2004年夏、プロ野球ファンの抵抗』を出版した。出版によって、署名活動等の各種運動が一企業の出版利益を捻出するために行われたもの、一連の運動があたかも一団体によって指揮されたものであったかのような誤解を与えかねない行為となるなどとする批判には耳も貸さず、言論の自由を封殺した上で出版は強権的に行われたものであり、一冊購入し目も通したし、心にグッと熱いものがこみ上げたのも確かなのだが、その出版を巡る一部始終について私はこれを断じて許すことができないでいる。

著者である佐野正幸氏の経歴については、近鉄バファローズならびにパシフィックリーグのファンの方には今さら語るまでもないことであるが、これまで氏の著作が長崎出版から発売されたことは一度もなく、今回どういった経緯で本書が長崎出版から出版されることになったのかは、出版業界の内情に明るくない私には分かりっこないこととはいえ、大いに疑義を挟む余地がある。

昨年の今頃、私たちの近鉄ファンの回りに“出版プロデューサー”的な人が彷徨いていたのは事実であるし、私も合併阻止のためならばと、その幾ばくの者と名刺や連絡先の交換をした。『合併反対』の制作に携わった人物の中には、当時は別の出版社の肩書きで名刺を切っていた者もいる。彼らは私たちの流した汗と涙に金儲けの匂いを感じとって動いたとしか考えられないのである。私はクレーマーではないし、長崎出版の胡散臭さからくる不快感・抵抗感は単なるアレルギーでないことを申し述べておく。

しかしながら、私と佐野氏とは親交はないが面識があり、氏の人柄が全幅の信用をおけるものであることは間違いなく、出版社への疑義はひとまず差し置いて、私は本書を手に取ることとした。

『近鉄消滅 新生パ・リーグ誕生』
第1章 - パ・リーグの栄光と騒動の歴史を振り返る
第2章 - パ・リーグの真実をぜひ知ってほしい!
第3章 - プロ野球経営者よ! もっと誇りを持ってくれ!!
第4章 - 04年「6・13」から「9・30」までのマイ・ドキュメント
第5章 - 嗚呼! 思い出のおおらかなる近鉄野球
第6章 - 2005年 新生パ・リーグに素晴らしい未来あれ!
第7章 - 緊急追稿 2005年度交流戦考察
『近鉄消滅 新生パ・リーグ誕生』

ざっと読み終えての感想。読めば読むほどフラッシュバックするバファローズの名場面。佐野さんの近鉄本が他の著書と決定的に違うのは、そこにいちバファローズファンの視点があるという点だ。あの日、あの時、あの一球一打に願いを込めてきた人々がいる。「パリーグを一度でもちゃんと見てから物を言え」という、私たち近鉄バファローズのファン・パシフィックリーグのファンの声を、佐野さんは大切に拾ってくれる。佐野さんの意見が近鉄ファンの総意ではないし、個々のファンの意見と大きく相反する部分もあるが、同じ空間を共有してきた者として共感を覚えないわけにはいられないのである。

無論、近鉄が必ずしも善でないことは明らかであり、限りなく近鉄側に立ちながらも、近鉄への批判も忘れていない。それは安物のスポーツメディアにありがちな、闇雲にイメージだけを取り繕った批判ではない。このWeblogでも何度か取り上げたことがある永井氏・小林氏の両元球団社長の人となりに対する近鉄ファンの側からみた評価などには、一般論として近鉄バファローズのことを「知ったかぶり」で語られているものとの間に大きなギャップがある。色眼鏡やフィルターを通さずに近鉄バファローズあるいはパシフィックリーグの置かれた境遇を知ることで、「何が問題だったのか」を考え直す機会になるのではないだろうか。

とはいうものの、球団合併によって近鉄バファローズを応援してきた者の多くは泣き寝入りを余儀なくされており、例によって、読めば読むほど悲しさと悔しさが次々にこみ上げ、やがてとめどない怒りの湧き上がりを経て、そしてそこはかとない虚しさだけが残る。佐野さんは、そんな近鉄ファンに精一杯のポジティブシンキングを提言している。が、まだ1年も経たぬ今、それは分かっちゃいても飲み込めないのが人情というものだ。

あらためて、この素晴らしい球団に出会いファンになったことに幸せや誇りを感じるとともに、えもいわれぬ無常観に押し潰されそうになった。近鉄バファローズは一体何だったのか。夢でも幻でもなかった近鉄バファローズ。「近鉄バファローズは無くなった。もう生き返らない。」と、佐野さんは説く。けれど、私たちの心にある大切な何かは、そう簡単に死ぬものではない。

合併球団や新規参入球団によってプロ野球が救われたと勘違いしてはいけない。曲がった前例が出来ただけなのだ。何も解決していないのだ。プロ野球は危険性を背負っているのだ。「球団が無くなる」という恐怖から解放されていないのだ。まだ戦いは終わっていないないのだ。汝、野球が好きなら止まれ、見よ、聞け。


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コメント

 h-kazuです。いきなりうちのBlog名が登場してびっくりしました。Blogリンクして頂きありがとうございます。『合併反対』は、私も買って読みました。そんな経緯もあったのですね。私もダイナミック仲間や会社での署名を大阪ドームまで持っていったので興味を持って読みました。
 私は、まだ前向きになるにはもっと時間がかかりそうです。近鉄バファローズが大好きだったから。まだまだ、次を考えられません。

んまぁ、あの団体とこの出版社の件については、それぞれの立場で認識にズレがあることとでもいいますか、「私は不信に思っている」に過ぎず、いたずらに対立を煽るのは意図しないところでありますゆえ、「そういう見方もある」程度におさめておいてください。おかしいといってもそれは組織的におかしいだけで、それを更正する個人にはいい人もいますし…。(とフォロー)

私は、合併が決まった去年の今頃は「もうプロ野球なんて足洗ってやる」と決め込んでいたのですが、球春到来とともに禁断症状に襲われ「なんだかんだいってもバファローズだから」と合併のファンになろうかと努力したものの、つくづくと「これは俺の愛したバファローズじゃないな」と失望することの連続に辟易とし、「やっぱり合併球団は逆立ちしても応援できない」と思い知らされ、けれど「どうしても野球は嫌いになれず」とグズグズしてるうちに、気が付いたら「哀れな野球難民」となり今日を迎えています。

本書を手にとって、寂しさを感じながらもあのチームを見守っていられる佐野さんを、ある意味では恨めしく、ある意味では羨ましく思えてなりませんでした。とことん何もかもが理不尽で、それをどう消化していいのか、ますます分からなくなってしまいそうです。

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