カープ・松田オーナーの「ちょっといい話」

少し古いネタだが、中国新聞ウェブサイトの『みんなのカープ』というコーナーで、広島東洋カープの松田元オーナーと4人のファンの座談会の模様がレポートされている。

球団オーナーがファンと同じテーブルにつき、球団や球界について語り合う。ごく当たり前の光景なのだが、こと何かと閉鎖的なプロ野球界においては極めて異例なこと。12球団のオーナーはどいつもこいつも口を揃えて「ファンあってのプロ野球」とのたまうが、実践しているのは松田オーナーただ一人である。ファンから逃げ回って、署名の受け取りさえ拒否して、裏でコソコソと球団合併に突っ走ったどこぞの球団オーナーとは雲泥の差である。

まぁ、結論から言ってしまうのもアレだが、一言。「カープって、ええ球団やなぁ」。


『強くあれ』、『新球場』、『地域とともに』の全3部構成の対談から、一部を引用しながら以下すすめたい。

藤田: カープは基本的にドラフト巧者の育成球団だと思う。将来性のある高校生を入団させ、うまく育ててきた。ただ最近、お家芸の「育成」面が色あせてきたのでは。

久保下: FA権取得で主力選手が抜けていくのも残念だ。それでも野村謙二郎さんのように、最後までカープ一筋の選手もいる。カープに誇りを持っていたのだろうし、そういった選手を育ててほしい。

松田 FAで抜けた穴を埋められないのが、うちの欠陥だ。層の薄さを物語っている。 育成面では最近悩み始めている。これまでは、技術面だけでなく、精神面でも「社会人として、どこに出しても恥ずかしくないように」と育ててきた。実際、トレードで他球団に行っても評判がいいし、コーチになる率も高い。だが、超一流が出てこないのも事実だ。破天荒な素材を避け、無意識に優等生ばかりを選んでいるのかも。見直しが必要かもしれない。

カープが強かった頃を思い出そう。山本、衣笠、高橋、山崎、木下、長内、西田、長島、北別府、安仁屋、大野、川口、津田…。十人十色の個性を持った選手がカープの黄金期を作った。いかに「育成のカープ」でも、ただ闇雲に猛練習を課すだけでは強いチームは作れない。あくまで素材あっての成長である。現実論として、努力では解決できない格差が「制度」として横たわっているプロ野球。補償金を用意できる一部の球団しか参加できないFA制度の見直しと同時に、より公平かつ公正なドラフト制度を確立する必要がある。

藤田: 全国のカープファンの共通の声は、現球場の良さをそのまま引き継いでほしいということ。一言で言えば、選手とファンの近さを保ってほしい。選手を身近に感じることができるし、迫力あるプレーを臨場感を持って楽しめる。

新谷: 同感だ。子どもたちが一番望むのは選手とのふれあい。あこがれのカープ選手に話しかけられたり、サインをもらったりすれば、一生ファンでいられる。そんなふれあいを実現するような「空間」をぜひ設けてほしい。

松田 選手との近さは大切な要素だ。二軍のホームグラウンドの由宇球場(山口県由宇町)はそこを失敗した。当時、ファウルグラウンドを広く取るのがいいと考えたが、プレーの臨場感や迫力を考えればミスジャッジだった。

どこの球団とは言わないが、ハコモノを完成させたところで満足してしまい、新球場に押し潰された球団がある。野球場は、新しければいいというものではない。古いものにだって「愛される理由」が必ずある。選手にとっては職場、観客にとっては憩いとくつろぎの場。サービスの基本は、利用者のニーズを知ることである。広島新球場建設は、自治体にとってもカープにとっても決して安くないお買い物。個人的には性急な新球場待望論をあまり好ましく思えないが、無駄遣いに終わらせないようしっかりコンセンサスを取ろうという地域・球団の姿勢は大きく評価したい。

久保下: 地域に根ざした経営を進めるJリーグと比べると、プロ野球は企業色が強い。広告価値がなくなれば撤退し、価値があるとみれば参入する。その点で、「公共財」としてのカープの在り方が問われている。

藤田: 球団は確かに公共財だ。ここで一言、オーナーにお礼を言いたい。揺れに揺れた一昨年の臨時オーナー会議で、カープはリーグ合併の議決を棄権してくれた。市民球団としての生い立ちがあるからこその決断で、感動した。

松田 実は棄権は勇気が必要だった。だが、球団を支え続けてくれた市民の存在が決断を促した。ファンや、球団を育てた広島という街こそが、ほめられるべきだと思う。それに意外に各球団からも、うちを責める言葉は出なかった。「カープはしょうがないな」ってことじゃないか。地域に支えられた球団と認知されているのだろう。

多くのプロ球団が「地域密着」のスローガンを掲げている。しかし、プロ野球の実態は未だに企業密着。なにかと地域密着の見返りを求めるプロ野球界だが、自治体は一企業の宣伝広報活動に公金を拠出することはできない。結果、一企業の私物である限り、プロ野球あるいはプロ球団は公共財となりえない。それはすなわち、一市民の声が純粋なまま球団に届くことはないという意味になる。球団を親会社の子会社である以前に市民のものと定義づけ、名実ともにそうして歴史を紡いできた広島カープという球団は、12球団の中で唯一の公共財であり、公共財としての責務を果たそうとする姿勢には頭が下がる。

新谷: 球団には「もっとふれあいの場をつくって」とお願いしたい。今回の授業には、若手選手に参加してもらった。主力選手ではないだけに、実は子どもたちはよく知らなかったのだが、話しかけてもらうともう夢中になっていた。たぶん一生応援するだろうし、カープをより身近に感じただろうと思う。

松田 僕も幼いころ、広瀬叔功さんに声を掛けてもらったことがある。絶対に忘れられない。一瞬のふれあいがどれほど貴重かはよく分かる。

広瀬といえば南海ホークス黄金期の盗塁王。広瀬は広島出身で、南海は広島・呉でキャンプを張ったこともある。その一コマであろうか。南海といえば、球場まで自転車通勤する選手たち。近鉄もそうだった。阪急もそうだった。人気球団の阪神でさえそうだった。市民の日常生活と、プロ野球選手の日常生活に、何の分け隔てもなかった時代。テレビの向こうのスーパースターと並列して、目の前にいるローカルヒーローがもてはやされた。市民と野球の距離は、視聴率や観客動員数では計れない。プロ野球が急速に発展性を失った一因は、メディアが重宝する数字にそのまま振り回されてしまったところにある。

藤田: 集客に向けて提案がある。シニアやレディース、ジュニアといった年齢、性別のファンクラブはあるが、一般成人男性は入るところがない。誰でも入れるファンクラブをつくってはどうか。 阪神は一昨年、同様のファンクラブをつくり、プレミアムグッズ欲しさもあって大成功した。ファンは、入場券の割引などといった金銭的なメリットを求めているんじゃない。カープと一体であるという証し、ファンクラブに入っているというステータスが大切なのだ。

松田 そういったニーズがあるとは、正直思わなかった。今季はもう間に合わないが、来季に向けて検討する。 こうした声が聞けたことは、実にうれしい。昨秋、若佐さんの大学に招かれ、話をさせてもらったのも同じ。一方通行の「1WAY」じゃなくて双方向の「2WAY」のコミュニケーションができたらと常々思っている。話し合いや交流の中から生まれてくるきずなもあるはずだ。

みんなに愛される球団だからこそ、大切なのは「誰でも」というキーワード。チームを愛しているファンが求めるのは、経済性ではなくステータス。みんなが「俺のもの」と言えなきゃ、みんなの球団じゃない。入会金の上下でファンをランキングしている某合併球団のアホどもは、松田オーナーの爪の垢を煎じて飲むべきである。ゴルフの会員権じゃあるまいに高額会員と少額会員の間、あるいは会員と非会員の間で、内輪の格差を設けたところで球団のステータスはちっとも上がらない。ファンの求めるステータスとは、その球団の一員として認められたかのように感じる一種の疑似体験から派生するもの。球団とファンの間のコミュニケーションツールとして実用的なファンクラブの形態を模索し始めたカープの、今後の動きに注目してみたい。

広島カープは「市民球団」といわれる。では、市民球団とは一体何なのか。地域密着とは一体何なのか。プロ野球界隈には、これを正面から理解している人間が極めて少ない。

たしかに企業の支援は必要だ。しかし、企業から独立しないかぎり、地域密着型のプロ野球はありえないのである。いたずらに単位球団で膨張することは一企業の成長に過ぎず、プロ野球界の拡張や発展ではない。球界の枠組み、あるいは全体の規模について、そろそろ真剣に考える必要がある。

広島カープの取り組みは、一企業の子会社の域にとらわれないプロ野球チーム経営のモデルケースである。広島カープだからこそ、「嘘のない地域密着」を語ることができるのだ。


包装紙はファンサービスでも中身は別物。実際のところは企業倫理が最優先のまま、ファンサービスの押し売りが横行している昨今のプロ野球。

カープは貧乏だ。しかし、であるからこそ、松田オーナーは12球団の中で最も「野球を愛している」オーナーだ。カープは金儲けが下手だ。だが、野球の魅力そっちのけで、金儲けありきで野球に手を染めている他の11球団の親会社・オーナーに「野球を愛している」などと口にする資格はない。

プロ野球は、カープのような規模のチームが普通に戦える規模であるべきだ。一部球団が突出できるのはなぜか。構造そのものの見直しがなされない限り、いかに改革を標榜したところで虚しく響くだけである。

とち狂いまくったプロ野球界が「まとも」な方向に歩み始めるのは、一体いつのことになるのだろうか。ひょっとして、もう手遅れだったりして…。

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