鈴鹿サーキット、2007年のF1開催を断念
鈴鹿サーキットは、現在F1が開催されている世界各地のサーキットの中で、「日本人だから」という贔屓目を抜きにしても、ベルギーのスパ=フランコルシャンと並ぶ「最も面白いコース」の1つです。F1ドライバーに「好きなサーキットは?」とアンケートを採ると、「鈴鹿」を挙げないドライバーの方が少ないのです。
鈴鹿サーキットは、なにしろ古いコースですから、いかにも“今風”なところはありません。人為的に設計されたコースではなく、自然の地形に合わせたコースです。坂がありますし、雨が降れば窪地に水が流れて川や池ができます。山沿いを縫っているので、コーナーのアウト側のエスケープゾーンは、それほど広くありません。
近頃のF1サーキットはといえば、コース幅が何十メートルもあって、高速コーナーのアウト側がターマック舗装されているので、ミスやトラブルでラインを外れたマシンが平気な顔をしてレースに戻ってきます。イスタンブールのターン8なんかがいい例です。鈴鹿にはそれがありません。130Rで脱線したら、そこでレースは終わりです。オールドサーキットでは、ミスをした者が負けるというスポーツとして至極真当な光景が見られます。
昨年、130Rでフェルナンド・アロンソがミハエル・シューマッハをオーバーテイクする場面がありました。あれがもし、何のリスクもない、ただ高速で回るだけのコーナーでの出来事だったら、とりたてて特筆するようなシーンではなかったと思います。飛び出せば2人とも無事では済まない場所・場面で、ギリギリの戦いを何事もなかったようにやってのけるから、F1ドライバーはカッコいいのです。チャンピオンにしかバトルできない舞台だから、鈴鹿は面白いのです。
たしかに、こういった古いサーキットは、コース幅が狭くてオーバーテイクが難しいという人や、エスケープゾーンが狭く危険だという人は決して少なくありません。50年近く前の基準で設計されたサーキットを、ありえないほどに進化した現代のF1マシンが全開走行するのは、非常に危険が伴います。鈴鹿の130Rでも、数年前にガードレールを突き破ってコース外にマシンが転がっていくという危険な事故がありました。
しかし、ドライバーの能力の優劣がはっきりと見られるのは、こういったコースなのです。ミスをしてもリタイヤしない、少しくらいブツけても怪我をしない、そんなF1に何の魅力があるでしょうか。そんなF1ドライバーを誰が尊敬するでしょうか。その他大勢には逆立ちしても不可能なことを、平気な顔でやってのけるクレージーな人たちがいるから、F1はスゴいのです。
世界屈指の高速サーキットだった富士スピードウェイは、ヘルマン・ティルケ氏の手によって“今風”なコースに生まれ変わりました。レイアウトを眺めれば以前の面影こそ残っているものの、実際のところは完全に違うサーキットになりました。
フォーミュラニッポンなどの国内レースを見ていても、実に退屈です。広々としていますが、自然ではなく人工的なので殺風景です。バトルが増えたそうですが、レベルの低いドライバーが無茶をしても怪我をしなくなっただけのことです。むしろ、かつてのように、最終コーナーで空力を失わない程度に差を詰め、メインストレートの終わりのブレーキングに賭ける、トップドライバー同士の息を呑む攻防の記憶が残らなくなりました。
「最近のF1は面白くない」というのも、多分に「どこも同じようなサーキットばかり」になってしまったことと無縁ではないのではないでしょうか。エストリルとバルセロナ、コースレイアウトも平均速度もそう変わらないのに、狭いエストリルを走るF1マシンはリスキーに見えるものです。上海の180度バンクとメキシコのペラルタダ、これも同じようなコーナーなんですが、バンプで飛び跳ねて火花散らしながら回るペラルタダの方が、ドライバーにも挑戦のし甲斐があり、ファンが受ける迫力も上です。
人為的に混戦を作ることは簡単なのです。問題は、スポーツが人為的である必要はどこにもないということです。名勝負の何倍もの凡戦があるから、1つの名勝負が際立つのです。オールドサーキットのレースが面白いのは、自然あるいはあらゆる制約の中に立地したサーキットであるという点において人為的要素が1つ削られているからなのです。
鈴鹿サーキット、来年のF1開催を断念三重県鈴鹿市にある鈴鹿サーキットを管理運営するモビリティランド(同市)は20日、これまで同サーキットで開いていた自動車F1日本グランプリ(GP)の来年の開催を断念した、と発表した。
来年の日本GPは静岡県小山町にある富士スピードウェイで開かれることが決まっていたが、鈴鹿側は「決定は暫定的なもの」として、国際自動車連盟(FIA)側に1国2開催での継続開催を求めていた。その後も交渉を続けてきたが、合意に至らなかった。
モビリティランドは「2008年度以降、再び開催できるよう話し合いを続けたい」としている。
鈴鹿と富士、この2つのサーキットには、トヨタとホンダのモータースポーツに対するフィロソフィーやポリシーの違いが露骨に出ているように感じます。
自分の作ったレーシングマシンを走らせる場所がないから自分たちでサーキットを作ってしまったホンダ。本田宗一郎さんは「田畑は百姓の宝」といい、農地をできるだけ削らないで済む鈴鹿を選びました。F1グランプリを誘致して20年、日本のF1は鈴鹿を拠点に盛り上がり、3日間で30万人以上を動員するという世界最大規模のグランプリに育て上げました。「F1」や「モータースポーツ」に対する認知度は飛躍的に向上しました。大体、来年のF1開催地がどこになるかなんて記事が新聞、それも一般紙に載るということ自体、20年前の日本ではありえないことだったのです。種を蒔くところから全て自分でやらないと気が済まないところが、さすがホンダです。
トヨタが富士にF1を引っ張るために投下した金額は、一説には200億円以上。地権者が何人もいた富士スピードウェイを買い取って、コースを改修し、F1誘致のためのインフラ整備にも投資してますから、もっと使っていても不思議ではありません。トヨタは、ホンダと鈴鹿サーキットが作り上げた基盤を丸ごと買い取ることに成功しました。F1以外のカテゴリーでも、トヨタはいつでもこうです。ある意味、トヨタらしく筋の通ったやり方です。クルマの競走ではトヨタなんて屁でもないところですが、銭金の積み上げ競争でトヨタに勝てる企業なんてこの世に存在しません。さすがトヨタ、世界の巨人、よかったですね、はいはい。
「買う」ことが悪いことだとは言いません。しょせん、F1なんてカネが全ての世界ですから。しかし、「作る」ということも評価されなければならないと思います。F1がいつかまた鈴鹿に帰ってくるかもしれませんし、もう帰ってこないかもしれませんが、ホンダと鈴鹿の功績、そしてなぜF1が鈴鹿から富士へ移されることになったのか、日本のモータースポーツ史にしかと書きとどめておくべきだと思います。
私は富士には行きません。強制収容所行きを思わせるバスに詰め込まれて、どうせゲートで配られたトヨタの小旗かなんかを無理矢理振らされて、テレビでは「トヨタファン盛り上がってます」とか言われるのがオチでしょう。実際のところはその旗の下をホンダやスーパーアグリのファンで埋め尽くされているであろう富士スピードウェイをテレビで見た方が面白そうです。
チケット代、交通費、宿泊費、その他諸々家族3人でたった3日のために20万円は下らない金を使うのです。生のF1を見るなら、ホンモノのF1が見られる海外に行った方がマシです。そう毎年毎年は無理かもしれませんが、富士で見るよりは絶対マシです。いや、いっそのこと、ジャックを追いかけてNASCARでも観に行った方が楽しいんじゃないでしょうか。














コメント
おはようございます
トラックバックありがとうございました。
頷きながら読みました。本気のバトルが見られる凄さというのは確かにありますね。ドライバーからも「チャレンジング」だと評価も高いですね。
でも、事故は見たいとは思いません。その辺のバランスが欲しい気がします。
コースについて、GTドライバーからは幾つか注文があるようでした。舗装の老朽化に関する物でしたけど。
投稿者: ビートニク | 2006年9月23日 06:23
はじめまして、すずかのパパともうします。
勝手にトラックバックさせていただきました。申し訳ありません。
記事を読んでいて、かなり”過激”な発言をされていたので、思わず最後まで読んでしまいました。
私は近畿在住なので、おそらく今年の鈴鹿でF1観戦が最後になると思います。なにわっちさん同様に、富士は遠すぎます。でも、これからずっと日本GPが富士ならば...将来は気持ちが変わるかもしれませんが。
どちらにしても、今年の鈴鹿、思う存分楽しみましょう。
ここのblogは、近鉄やプロ野球のこともあるので、楽しかったです。
また寄らせてもらいます。
投稿者: すずかのパパ
| 2006年9月23日 15:37
>ビートニクさん
もちろん、「安全に競走できる」ことは、何より優先されるべき事柄です。
ただ、その一方で、やっぱりF1というのはモーターレーシングの頂点であり、(表現は少し極端かもしれませんが)誰でも参加できるレースではいけないという思いがあります。
ゴルフなんかもそうですが、世界の頂点を決める戦いには、一流のプレーヤーにしか攻略できない難攻不落の場所での戦いが必要で、鈴鹿は世界でも数少ないその条件を満たす舞台の1つだったので、残念に思います。
PS) 舗装に関してですが、多少のデコボコはあるにせよ、私の知る限り、日本のサーキットの舗装は世界一です。欧米なんかでは、コンクリ混ぜた白い舗装が今でも当たり前のように使われていますし、F1をやっているようなサーキットでも真ん中にパックリ亀裂が走っていたり、縁石の際でアスファルトがめくれ上がっていたりするのが日常茶飯事です。
日本のレーシングドライバーは少し贅沢過ぎるなという印象だったりします。
>すずかのパパ
当の本人は、過激なことを書いているという自覚が全く無いのですが、このところそういう公私両面でそういう指摘を受けることが多いので、自分がぶれているのか世間がぶれているのか、ちょっと悩んでいたりします(棒読み)。
さて、関西から富士は遠いですね。
私の場合、ここ数年は、水曜か木曜に名古屋までクルマを飛ばしまして、名古屋の某ホテルを定宿にして、そこから鈴鹿通いをしていました。昔は野宿や車中泊をしたこともあります。20年前は本当に何もなかったサーキット近辺も、最近は銭湯やコンビニ、スーパーも充実してきました。
富士となると、そうはいきません。あちらの地理には明るくありませんが、御殿場など近辺の宿は関係者で埋まるそうですし、静岡や浜松にはそもそもそれほどのホテルがありませんので、宿とサーキットまでの足を確保するのが大変ですね。
東京や名古屋に宿を取って、そこから富士まで地獄の当日バス移動になるんじゃないでしょうか。TIでやったとき、日帰りのバスで大阪から土日二往復観戦したことがあるんですが、あれと同じような地獄絵図が目に浮かびます。
トヨタさん、実に迷惑なことしてくれたと思います、いやほんまに。
投稿者: なにわっち
| 2006年9月26日 14:10
FISCOが駄目と言うよりも鈴鹿じゃなきゃ嫌だって感じですね。わちは。
中嶋、セナのキャメルロータスも雨の納豆走法も引退後のストレートでの馬鹿スピンも鈴鹿じゃなきゃさまにならないですよ。
無理矢理シケインこさえて形にしたFISCOよりもテクニカルな鈴鹿のほうがコース的にも面白いでしょう。
わちは8耐もあるので鈴鹿には足を運ぶでしょうけど…
なんとも寂しいものですよ。はい。
投稿者: Raiden
| 2006年9月26日 17:32
>Raidenさん
ここ数年、鈴鹿の改修といえば、逆バン・シケインの付け替え、ピット・パドックの拡張、不自然に浮かぶVIP席などなど、それはそれはF1を続けてもらうためにFIAの言いなりになっただけだったような気がします。
130の外側をターマックにしてシケインを移動させた途端に大ちゃんの事故が起きて、二輪には不適切なサーキットになってしまいましたし、サーキットがF1にスペシャライズされるたびに、8耐や1000キロのような、かつての鈴鹿のビッグイベントの存在感が薄れていった感も否定できません。
これはこれで、元の「なんでもあり」な鈴鹿らしさを再興する契機になるかもしれませんね。
投稿者: なにわっち
| 2006年9月30日 17:44