結局、しわ寄せは地方に回される… 馬インフルエンザ
割れた足の爪、ようやく伸びて切り落とすことができました。液体絆創膏の消毒成分が効いたのか、件の親指と、隣の人差し指の間の水虫が治まりました。他の指の股の水虫は一向に死滅しません。テレマートで買った紫外線治療器、2回目の夏になるけど全然ダメだね。
ということで、汚い話はさておき、本題の「馬インフルエンザ」について…。
お盆の中央競馬の中止で大きなニュースになった馬インフルエンザ。その週末は嘘・デタラメ・とんでもな見解も交えて大々的に報道され、その後、地方競馬に感染が拡大すると、普段は地方競馬には見向きもしないマスコミが押しかけ、「インフルエンザ」と「中止」の2つのキーワードだけをやたら強調される有り様。
どんなに面白いレースをやっても取り上げないくせに、こんなことだけは殊更に取り上げられるんじゃ、ただでさえ良くないイメージがさらに悪くなるというもんです。あれじゃ、ほとんど営業妨害です、はっきりいって。
通常、馬のインフルエンザウィルスは感染しても3~5日程度で体内から抜けるものとされています。感染しても発症前に体外に放出されることが多く、発症に至っても1~2日間、通常の風邪と同じような症状を起こす程度だということです。
元来、インフルエンザは、高温には弱いウィルスなので、夏場に流行することは珍しいものです。日本における前回の大流行は真冬でした。香港やフランスでも流行は秋から冬の時期に集中しています。
かつて香港で流行した際は、一部の感染馬が殺処分されたということですが、並みの抵抗力を持っている馬を死に至らしめるほどのウィルスではないので、この対応は拙速というか過剰反応だったということでしょう。
もちろん、国内の全ての競走馬はワクチンを接種が義務づけられています。今回も、感染しても発症しなかったり、発症しても病状が軽度で治められたりすることから、予防接種には一定の効果が見られると、JRA(の獣医)はコメントしています。ただ、夏場にもかかわらず、感染がここまで急速に拡大した背景には、ワクチンの効能である免疫機能の強化が十分に達成されていないという意味でもありますから、未知もしくは亜種の新型ウィルスだったという可能性が高いと思います。
オーストラリアの馬にも感染したということですが、山野浩一氏曰く「世界有数の厳しい検疫」とされるオーストラリアの検疫を突破したのなら、従来は想定していない新型のウイルスである可能性はますます高いと言わざるを得ません。
まぁ、今回は夏だから良かったものの、これから冬に向けてインフルエンザ禍が再拡大する可能性は否定できません。起きてしまったものは仕方がないので、事態の収束と再発の防止に全力を挙げてもらいたいところです。
さて、JRAは2日間の中止のあと、「出走予定馬の全頭検査を行い、陽性馬は出走させない」として、開催の再開に踏み切りました。1000頭単位の馬が所属しているJRAならではの力業、100頭単位の感染馬がいたって競走に必要な馬を集めることには事欠きません。獣医資格も持つ美浦の和田調教師が「発症していなければ競走能力には影響がない」と言い切っちゃっています。本当かどうかは知る由もありませんが、通常の風邪にかかっている馬でも、発症もしくは投薬がなければ普通に競走に出てきて走っているわけですから、指摘としてはあながち間違っていないと思います。
ただ、「陽性馬は出走させない」というのは、感染の拡大を防ぐ防疫上の措置としては妥当ですが、これをもって「公正競馬を確保するため」とすることには無理がありますね。なぜなら、屁理屈かもしれませんが、これでは毎週、風邪の検査もやってもらわないと、公正が確保できないということになります。JRAが「陽性馬の出走が公正を欠く」と言っていることになるわけですから。競馬開催を再開に漕ぎ着けるために無理矢理取って付けた大義名分ではないかという印象を禁じ得ません。
中央競馬はそれでいいかもしれません。ただ、割を食う地方競馬にとってはたまったものではありません。JRAとの交流が殆どない高知、福山、荒尾を除く全ての地方競馬場でインフルエンザ陽性馬が見つかっています。大井、金沢、水沢、旭川、そして園田では開催中止に追い込まれ、名古屋、笠松も開催の縮小を余儀なくされています。
なにしろ元々、地方は馬不足。そこへきて「インフルエンザ陽性馬は出走させない」となると、競走が組めません。地方から中央、中央から地方、地方から地方、それぞれに馬の移動に制限がかかっているので、交流競走もできませんし、JRAからの転入予定の馬も入って来なくなります。
園田競馬は先週木曜から今週、来週の全ての開催が中止になりました。表向きな理由としては、簡易検査で陽性と判定された馬が相当数にのぼったこと、そして陰性馬だけでは競馬開催に必要な頭数が足りないことが挙げられます。また、夏場ということで放牧されていた馬、トレーニングのために厩舎を出て牧場にいった馬、中央(主に未勝利)や地方他地区(主に道営)から編入予定だった馬などが入厩できないことも、頭数を揃えられない理由になります。
とにもかくにも、陽性馬を排除しても力業で開催することができるJRAと違って、地方競馬は陽性馬を排除してしまうと「開催しようにも馬がいないからできない」という状況なんです。
こんなこともあってか、先週日曜の佐賀競馬では、馬主会が競馬組合による出走馬の全頭検査を拒否する事態になり、組合は「公正を確保できない」として中止を宣言することになりました。馬主会と意見調整が十分に行われることのないまま、組合が「公正確保のための検査」を口実に開催強行を図ったためと聞いています。
「陽性だから出走できません。しかし競馬は予定通り開催します」となった場合、陽性馬の馬主は、出走できる態勢なのに出走できない馬の預託料を支払うことになります。これでは馬主はドブに金を捨てるようなものです。仮に陽性馬を5頭抱える馬主がいて、1頭あたりの預託料を月額20万円とすると、開催が強行された場合の損害額は100万円になります。1着賞金30万の世界で、100万の賞金を稼ぐのがどれほど大変なことか…。
馬主会といっても一枚岩ではなく、私の少頭数で楽しんでいる零細馬主から、地元の名士、中央でも馬を持つ大金持ちなどなど、それぞれに事情を抱えた人たちの集まりです。しかし、その実態はといえば、「会」としての意志を決定するのは多頭数を抱える「大手」に分類される馬主さんということになります。それにはそれで問題がないわけではありませんが、馬不足の背景に馬主減少という現実がある以上、多くの馬を預けてくれる馬主の存在は、零細馬主にとってもありがたい存在です。
以下、馬主の視点で書きます。
たとえば園田の在籍馬で最多数を占める「C級」の馬を持っているとします。これを中一週・月2回のペースで使って、4割くらいの確率で入着を繰り返したとして、出走手当と賞金を足して預託料に届くかどうかという世界です。開催が中止になってそのわずかな手当も入ってこないとなると、馬主にとっては預託料だけが丸々のしかかり大きなダメージです。
儲けようと思ってやってるわけではないんで手当と賞金で半分くらい返ってくればよしと思ってるわけですが、私らのように3頭前後の馬を、それも共有で持っている零細の馬主でも、そのランニングコストは月3~40万円近くにのぼります。10頭、20頭と預けている馬主さんになれば金額は100万単位にのぼります。預託料が払えなければ馬を手放すしかありません。手放した馬の行き先がどこになるかを想像できてしまう人には、気が滅入ってしまう話です。
佐賀では開催することによるデメリットを嫌った結果、中止という事態になったわけですが、一方で園田の例を出せば、中止によるデメリットがあります。いま、地方競馬が置かれているのは、やってもやらなくてもしわ寄せが来る状態ということになります。こんな時に、病気をバラまいた張本人である中央競馬が、「陽性or陰性?」という的外れな答案用紙を地方に押し付けて、ちゃっかりそしらぬ顔で開催されているというのは、なんとも腹立たしい限りです。
それでもまだ、馬主なんてもんをやってる人の大半は私を含めて道楽感覚なんで「いやならやめる」ことができますが、馬を預かり、調教をして、競走へ送り出し、賞金を稼がせることを仕事にしている方々は「やめる」というわけにもいきません。預託料というのは、馬を世話するためにかかる経費で、馬主が調教師に対して支払うものです。厩舎で馬を世話して下さる方々の人件費ではありません。彼らの収入は、競馬組合から支給される基本給と、競走馬を出走させるたびに支給される手当、馬主からの進上金(賞金の約5%)です。
ぶっちゃけた話、地方競馬の厩務員の方々の給料は、仕事のキツさに見合う額だとは思えない雀の涙のような額です。よっぽど馬が好きでなければできない仕事です。競馬が中止になると彼らの生活にも大きな影響が出ます。組合が補償を行うとしても、どこの地方競馬も台所事情は決して余裕のないものですから、持ち出しによって苦しい経営状態がさらに苦しくなります。「赤字即廃止」とお灸を据えられている競馬場にとっては、存廃問題に拍車を掛けることにも繋がりかねませんから、「補償しろ」と口に出すことさえはばかられます。
中央競馬の場合は、中止になった2日間に出走を予定していた陣営に補償金が支給されました。満足な額とはいえないまでも、無いよりはマシな額といえます。1週間後には再開され、救済の色を含んだ番組の改訂も行われています。園田競馬については、現在までのところ、私の耳にはそういった話は入ってきていません。小口の馬主は後回しにされてるのかもしれませんが…。
中止になった7日分をどこかで代替開催するというアイデアも考えられますが、厩舎フル回転で週3日ペースの頭数を揃えるのがやっとという状況で、4日目の開催をやるという話になっても、出られる回数が増えるわけではなし、ファンの財布が付いてこなければ、いたずらに開催にかかるコストが増すだけで、意味がありません。
中央競馬の中止が決まった日、『報道STATION』のインタビューを受けた関口房郎氏が「中止になった分の預託料は誰が持つんだ?」といった発言をしていた記憶があります。ほんと、誰が責任を持つんでしょうね。「公正競馬」という言葉を隠れ蓑にして、立場の弱いところへ責任を順送りにしていくのはよろしくないですよ。
全国で行われる競馬のために、競走馬が辿る道のりは、一般の皆さんが想像される以上に長く、そして多岐にわたります。
たとえば、私が園田で走らせている、日本の競馬のピラミッドの最底辺に位置するようなお馬さんでも、北海道は門別に生まれ、乳離れと同時に平取にある施設に馴致と育成に出され、買い手を捜してはセールに連れて行かれ、売れ残って千葉の牧場でドナドナ寸前のところを調教師さんが見つけて私が買うことになり、体重が増えなくて認定競走なんかとっくに終わった3歳になってから入厩する馬もおれば、本場馬の追い切りではなかなか絞れないんで一旦外に出して滋賀の牧場で乗り込みしてもらった馬もおり、基礎体力を付けるために西脇の坂路に持っていった馬もおり、とそれはそれは一頭一頭に波瀾万丈なんです。
国内だけでも大きく分けて中央と地方、20以上の競馬場があって、さらに中央には東西に巨大なトレセンが1つづつあり、地方でも兵庫県のように競馬場とは別にトレセンを持っていますし、北海道や南関東ではすっかり定着した外厩というものもあり、いわゆる「ミニ放牧」で活用される施設あり、大手の馬主さんが個人的に運営しておられる放牧場なんてものもあります。それらに入厩・在厩する馬は、馬産地に星の数ほどある生産牧場や育成牧場から送り込まれてくる馬です。現役の競走馬のみならず種牡馬・繁殖牝馬・乗用馬、競走馬以外の在来種の馬の移動履歴まで含めるとなると、国鉄もビックリ、とんでもないダイヤグラムが出来上がるはずです。
道路事情、馬輸送のノウハウ、様々な要素によって今や日本の競馬は「馬の移動」なくして成り立たないほどのボーダレス化が進んでいます。と、同時に、数年前にヨーロッパでえらい騒ぎになった口蹄疫や、今般のインフルエンザ大流行のような、馬の接触によるリスクも拡大しました。国内交流には飽きたらず国際化路線に突き進んでいく21世紀の日本競馬にとって、将来的に避けられない、拡大する限り付きまとうリスクです。「危機管理」という言葉があるように、危機を回避する術だけでなく、危機との遭遇を前提とし、危機と正面から向き合うことが求められているような気がします。
しっかし、岩田は騎乗停止、園田は開催中止、秋競馬がはじまったというのに全くテンションが上がらん。再来月の預託料を貯金しとかなあかんから、しばらく馬券お休みで…。












