“トラックライダー・藤井勘一郎”を知っていますか?

私は知りませんでした。

過日、いつもお世話になっている競馬関係者と食事をした際に、会話の流れの中で「藤井勘一郎って知ってる?」となり、雑談程度に色々と聞かせてもらい、強く興味を持った人物です。

帰宅後、詳しく調べてみようとしたんですが、なにしろGoogleに名前を打ち込んでも49件しか出てきません。とりあえず公式サイトを紹介しておきましょう。

以下、Wikipediaから引用です。

藤井勘一郎(ふじいかんいちろう、1983年12月31日 - )は、奈良県御所市出身のオーストラリアの騎手。現地ではJoe Fujiiの愛称で知られている(Kanichiroの発音が現地の者には煩わしく、付けられたニックネームがJoeであったため)

日本の中央競馬の騎手となることを志したが体格が大きかったために断念し、1999年5月にオーストラリアの競馬学校に入学。2001年3月に卒業後、シンガポールの厩舎で働き同国で見習騎手になることを目指すが認められず、2001年12月にオーストラリアで見習騎手となる。2005年、2006年と連続してシドニー地区で見習騎手リーディング2位となった。オーストラリアでシニア騎手として活動するにはビザが必要で永住権の取得を申請するが認められず、見習騎手の免許が切れる2006年10月に日本に一時帰国。オーストラリアでの見習騎手期間の通算勝数は184(うちメトロポリタンでの勝数47)。2007年1月にシンガポールで短期免許を取得して同国で騎乗し、同年3月23日に重賞のチェアマンズ・トロフィー(国内G3)に優勝した。

藤井勘一郎 - Wikipedia

こんな騎手もいるんですね。無性に「カッコいい男!」だと思っちゃいます。

で、なぜに彼のことが話題になったかというと、オーストラリアの騎手学校を卒業して、シンガポールの重賞を勝った“異色の”日本人ジョッキーが、この9月から大井競馬場で騎乗すべく短期免許の取得を希望したところ、地元騎手会の反対などもあって却下されてしまったというんですね。馬インフルエンザでてんやわんやしてる頃の話だったので、ニュースにもならなかったと…。

実は、この藤井騎手、昨年は川崎競馬で短期免許(日本の短期免許は有効期間が3ヶ月)を取得する予定でした。同時にシンガポールで申請していた短期免許(6ヶ月)が認められたため、川崎競馬への所属は実現しなかったのですが、この際にも少なからず地元の騎手の間で反対の声があったというのが、私の小耳に挟んだところだったりしますこの点に関しては伝聞にしか過ぎず、事実確認はしていませんので予めおことわりしておきます)

さて、大井競馬が藤井騎手に短期免許を交付しなかったことについて、騎手免許という視点から私見を述べたいと思います。

「騎手免許の一元化」は地方の騎手の悲願です。1つの国に2つの騎手免許があるなんて、ちゃんちゃらおかしい話です。

本来、騎手免許は、あくまで騎手という職業に就くために必要なものであって、騎手という職業に就いたあとは完全な実力商売であるべきなのです。これは、どんなスポーツでもそうです。選手になることではなく、選手になってからが勝負なのです。ところが、騎手には優勝劣敗の原則が成り立ちません。最初に手にした免許が「中央」のものか「地方」のものかで、その騎手の活動範囲が制限されてしまい、免許の違いが騎手としての技量や実績よりも優先し、実力と評価が釣り合わない固定された格差を量産しているのですから。

しかし、現状は、地方側が一方的に開放を求めるばかりと言えなくもありません。地方の中にも壁があるのです。地方競馬の騎手免許は、北は北海道から南は九州まで全国17場(註:2007年9月現在)ある地方競馬場で有効なものであるにも関わらず、実態として騎手が全国の競馬場を自由に飛び回ることはできません。中央競馬にたいして一元化を強く求めるかたわら、その地方競馬の内部が一元化されていないのでは、いささか説得力を持ちません。地方各主催者間の一元化なくして、中央と地方の垣根を取り払うことなど決して不可能なのです。相手に門戸開放を求めるからには、自分たちの扉も相手に対してオープンでなければならないのです。

藤井騎手は、中央の騎手でも地方の騎手でもありません。ただ、日本の騎手です。騎手という職業に就くため努力をした場所が外国だった、騎手になった場所がたまたま外国だったというだけの話なのです。どんな過程を通ってきたとしても彼は日本の騎手なのです。

かつて、高知競馬は調騎会が先頭に立ってサンタアニタ競馬場に騎手を派遣し、レースでの騎乗も実現させました。中央競馬で活躍する赤木高太郎騎手は園田所属時代にオーストラリアに自費で長期遠征をしたものです。北海道営の高岡調教師はシンガポールで開業し、同地で日本産馬を走らせています。近年では吉田稔騎手はオーストラリアで、内田利雄騎手はマカオで騎乗しました。今年も名古屋の岡部誠騎手らがマカオや韓国で短期免許を取得して騎乗しています。国内に壁があるならばと、それを突き破って海外に活路を求めてきたのです。

その遠征の動機がどんなものであれ、日本の騎手が異国の競馬を経験することによって得られる刺激は、大なり小なり騎手の資質の向上につながります。ならば、異国の競馬を経験してきた騎手が、日本の競馬場で騎乗することも、日本の騎手にとっては刺激になる筈です。海外で修行を積んだ、それも日本生まれの騎手が、国内の競馬に活路を求めているというのに、それを拒否するなんて、情けない話としか言えません。

これが「ヘタクソだから乗せてもらえない」というのなら諦めもつきます。無論、はたして彼の騎乗技術が日本でも通用するものかといえば未知数です。ただ、シンガポールでのG3勝ちをはじめとし、オーストラリアでも韓国でも騎乗の経験があります。もしも彼がオーストラリアやシンガポールの馬でジャパンカップなどの国際競走に参加する機会に恵まれたとすると、彼は何事もなく日本の競馬場で騎乗することが許されるはずです。日本の競馬にチャレンジする資格は十二分に持ち合わせているのです。

免許の交付に反対した大井の騎手会の立場も理解はします。おそらく全国のどの地方競馬場で参戦しようとしても大なり小なりの軋轢は生じたでしょう。しかし、そのツケを払うのは大井をはじめとする地方の騎手であることも忘れないでもらいたいです。

競馬は馬券を買ってくれる人がいなければ成り立ちません。騎手の皆さんが手にする賞金や手当も、元の元を辿ればファンの投資の賜物です。地方競馬の中では最大の売り上げを誇る大井競馬も、最高の立地条件と多彩なファンサービスによってかろうじて立場を守っているものの、ピーク時と比較すれば随分と賞金が目減りしています。競馬場の経営が傾いてきて、賞金が減額されると「どんなことでもやる」と関係者は口を揃えて言うんですよね。でも、言うだけなら易いんですよ。藤井勘一郎という風変わりな騎手がいて、物見遊山でもいい、冷やかしでもいい、彼を見に来るお客さんが1人でもいるならば、これも立派なファンサービスだったのですから。

大井所属の内田博幸騎手が中央競馬の騎手免許試験にチャレンジします。彼はもう何年も前から二次試験免除の資格があったのに出願を見送ってきました。表向きには「3000勝を区切りにしたかった」となっていますが、本当のところ彼は騎手免許の一元化を待っていたのだと聞いています。年齢的なこともあり、一元化の夢を果たせぬまま、やむなく中央移籍を決意したのです。実力に見合った評価を得るためには他に選択肢がないのです。1国2制度の騎手免許による弊害として、早ければ来年3月にも、地方競馬は内田博幸という有形無形の財産を失います。

内田騎手が藤井騎手の参入に反対する立場だったとは思えませんが、結果として大井の騎手会は藤井騎手への短期免許の発給を拒んだわけです。自分たちの門戸を閉ざしたまま、相手にのみ門戸を開けるように求めても、その叫びは虚しいばかりではありませんか。同じ日本で競馬をしているのに、地方の騎手にとって、中央競馬はある意味において海外よりも遠い存在です。それと同じように、日本生まれの藤井騎手にとって、地方競馬は海外よりも遠い存在です。

チャンスをモノにできるかは本人の実力次第です。決着は実力で決めればよかったのです。たしかに、逆輸入騎手への免許開放や、主催者を跨いだ騎手の移動が活発になったりすると、食い扶持が奪われる騎手も出てくるでしょう。しかし、冷たい言い方ですが、これは仕方のないことです。プロなんですから、能力のない者が淘汰されていくのは自然な流れです。

もちろん、救済の受け皿は必要です。実績のある騎手のみが移動を許される現行制度を立脚点としてはなりません。今年、高知競馬が、これは騎手の不足という事情もあってのことですが、地方各場の若手騎手を多数受け入れています。騎乗機会に恵まれない騎手が、騎手不足の競馬場で経験を積むというのは、システムの理念の部分においては非常に有意義なものだと考えられます。実社会に於ける「格差」の議論がそうであるように、機会の平等を担保することが、格差の固定化を解消するのです。

もとい、藤井騎手に短期免許が交付されなかったことを大変残念に思います。彼は日本生まれのジョッキーです。機会があれば日本で騎乗したいという思いはこれからも持ち続けてくれるはずです。彼のような騎手の夢が叶えられる、そんな日本競馬であってほしいと、いち競馬ファンとして純粋に願ってなりません。

トラックライダー・藤井勘一郎。近くて遠い日本の競馬、些細な理由で母国で騎乗することが許されず、世界を舞台に戦っている日本人騎手がいます。世界のどこかの競馬場で「Fujii」の名前を見かけたら、日本にはこんな騎手もいるということを誇りに思いたいものです。

藤井騎手は、ビザの関係で、海外での活動を一旦休止し、北海道の牧場で攻め馬手として働き、来年1月からオーストラリアで騎乗を再開する予定とのこと。いつか園田で乗ってくれる機会があると嬉しいです。大した力にはなれませんけど、調教師さんにお願いして乗り馬を用意させてもらいますよ。

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